病理医研究者のぼちぼち日記

病理医で研究者の著者が病理のことを中心にのんびりつづるブログ

水痘・帯状疱疹とそのワクチンについて

 水痘(すいとう、水疱瘡; みずぼうそう)と帯状疱疹(たいじょうほうしん)が少し話題になっています。これらのワクチンも含めて少し簡単にまとめてみたいと思います。

 

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水痘・帯状疱疹とは

 

 水痘・帯状疱疹は、ヘルペスウイルスの一種である 水痘帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus;VZV)によって引き起こされます

 ヘルペスウイルスといえば、くちびるにぷちぷちができる HSV-1 が有名ですが、ヒトに感染するものは 9種類が知られており、そのうちの HHV-3 (3番目)がこの VZV というものなのですね。

 

 ヘルペスウイルス属のウイルスはいずれも、一度感染すると、潜伏感染といってヒトの一生のあいだ、体の中に潜んでひっそりと感染しているという性質があります。

 VZVもヒトの体に一生潜伏感染をするウイルスなのですね。

 

 水痘は VZV に初めて感染した際に生じる急性の感染症で、全身にぷつぷつとした皮疹ができることで有名ですね。

 

 帯状疱疹というのは、一度感染した VZV は体の中に潜んでいるわけですが、免疫の状態が乱れたりすると、再活性化といって体の中でウイルスがまた増えだして、体の一部の領域に「帯」のように皮疹がでてくる状態です。帯状疱疹はVZVの再活性化による皮疹という事ができますね。

 

 そもそも水痘は、1875年にスタイナーによって、水痘でできた疱疹の内容物を他の人に接種するとうつることが示され(今では許されない実験ですね)、1888年にはフォン・ボケイが帯状疱疹の患者と接触すると、子どもが水痘を発症することを確認されたことでその疾患としての状態がよく知られるようになりました。

 1954年にウイルスが分離・同定されています。

 こちらを参考に ▶ 国立感染症研究所 水痘とは

 

VZVについて

 

 さて、水痘・帯状疱疹を引き起こす VZV ですが、このウイルスはヒトのみに感染するウイルスです。感染力は強力で、空気感染し、麻疹よりはましなもののムンプスや風疹よりは強いものです。

 

 VZV は初感染をするとウイルス血症といって、全身にウイルスがひろがって、全身の皮膚に皮疹をつくるのですが、それが免疫力によって抑え込まれると、神経を束ねている神経節という部分に潜り込んでこっそりと潜む潜伏感染状態となります

 一生潜むため、一度感染すると体から排除することは事実上できません。

 

水痘の潜伏期間、症状、合併症など

 

 水痘については、VZV に晒されたあと、潜伏期間は10-21日程度で、子どもでは全身の皮疹から症状が始まることが多く、大人では発熱や全身の倦怠感を伴うことも多くなっています。

 

 水痘では、通常は4-5日程度で皮疹はカサブタとなってきて治癒することになりますが、それまでは強いその水疱の内容物や滲出物に、感染性のあるウイルスがたくさん含まれています。

 

 合併症としては、肺炎や無菌性髄膜炎・脳炎が稀に起こりえます。

 

帯状疱疹の症状

 帯状疱疹は加齢やストレス、医原性の免疫機能低下などで生じやすくなりますので、高齢者(といっても50歳以上で急増します)、忙しくストレスの多い生活をしていた時、がんなどを発症したりその治療を受けたとき、免疫抑制剤投与や臓器移植を受けたときなどによく生じます。

 

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帯状疱疹の皮疹

 

そもそも帯状疱疹は、神経節に潜んでいたウイルスが、免疫機能が低下することなどで再活性化して生じる発疹を主体とする疾患で、体幹部(胸や腹)、頭頸部に多く現れます。神経の走行にそって、体の片側のみに現れることが特徴的で、帯のように発疹がでるため、帯状疱疹と呼ばれるのですね。

 

 ▶ 水痘帯状疱疹ウイルス疾患の病理 IASR Vol. 34 p. 302-303: 2013年10月号 

 ▶ 帯状疱疹.jp

 ▶ 帯状疱疹の原因 帯状疱疹.jp

 ▶ 帯状疱疹 maruho

 

 帯状疱疹の皮疹は非常に痛みが強いことで有名です。これは、ウイルスが神経に潜んでいてそれが活性化することにもよりますね。

 

 症状は3-4週間ほど続くことがあり、重症であったりできた部位が眼に近いなど危険性が高い場合は入院加療が櫃嘔吐なる場合があります。

 

 帯状疱疹の皮疹が治癒した後にもこの痛みは継続することが多くあり、帯状疱疹後神経痛といい、帯状疱疹の合併症としてはもっとも頻度が高く、5-25%程度の人にあることも知られています。

 ▶ 帯状疱疹後神経痛 疼痛.jp

 

 

 

水痘と帯状疱疹の診断

 

 

 水痘と帯状疱疹は普通は臨床的に診断されます。つまり、目で皮疹をみて、症状から判断されるという事です。

 

 しかし発疹の性状が典型的でないだとか、たの症状がつよいなどのように非典型的な場合においてはウイルス学的検査が診断につかわれることになります。

 これは、水疱の内容液や血液、ときに脳脊髄液からVZVのDNAを検出して調べる方法です。このほかにVZV抗原を検出する方法もありますがどれを使うかは検査の仕方によります。また、血清学的診断といって抗体の値を測ることもあります。

 

 

 

水痘と帯状疱疹の治療

 

 

 水痘と帯状疱疹の治療薬としては抗ウイルス薬がつかわれます。

 核酸アナログといって、ウイルスの増殖を邪魔する薬であるアシクロビル、バラシクロビルおよびファムシクロビルが使用されています。

 

 さらに、ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬という新しい機序で効く薬、アメナメビルも帯状疱疹に対する治療薬として承認されています

 

 

 

水痘に対するワクチン

 

 さて、水痘と帯状疱疹の予防はどうすればいいのでしょうか。

 実はワクチンがあるのですね。

 

 この VZV に対するワクチンは日本発で開発されており、2014年から生後 12-36カ月の児を対象とした定期接種が導入されています

 ▶ 水ぼうそう(水痘)ワクチン こどもとおとなのワクチンサイト

 

 定期接種化が始まってからは、小児科からの定点報告数は少ない数で移行しており、ワクチンの効果が明確になっています。

 ▶ 水痘・帯状疱疹の動向とワクチン IASR Vol. 39 p129-130: 2018年8月号

 ▶ 水痘の動向 国立感染所研究所

 ▶ 水痘ワクチン定期接種化後の水痘発生動向の変化 

  ~感染症発生動向調査より・第2報~ IASR Vol. 37 p. 116-118: 2016年6月号

 ▶ 水痘ワクチン定期接種化後の水痘発生動向の変化 

  ~感染症発生動向調査より・第3報~

 

 

 先に述べたように、VZV に初めて感染することによって生じるのが水痘ですので、はじめて感染する前にワクチンを接種することが大切なのですね。

 

 しかし、同時に、水痘は保育園・幼稚園で流行りやすく、空気感染もする感染力のつよいウイルス性疾患です。生後12か月まではワクチン接種がされませんので、それまでに感染してしまうことはあり得る、というのが現状でもあります。

 これに対しては、流行している場合には登園を控えるなどの行動をとることが重要となりますね。

 

 

帯状疱疹に対するワクチン

 

 

 同じ VZV に対するワクチンではあるのですが、帯状疱疹、つまり VZVの再活性化を防ぐことを目的としてもワクチンが用いられるようになっています。2016年には、乾燥弱毒生水痘ワクチンの効能・効果に「50歳以上の者に対する帯状疱疹の予防」が追加され、2018年3月にはサブユニットワクチンというものが承認されています。

 ▶ 水痘・帯状疱疹の動向とワクチン IASR Vol. 39 p129-130: 2018年8月号

 

 VZV にかつて感染し、ウイルスが潜伏感染をしている場合にのみ帯状疱疹は発症するのですが、じつは感染した人もときどき水痘の子どもなどからウイルスの曝露を受けています。今後は水痘ワクチンの普及によって、こういった曝露をうけることは少なくなることが予想されているのですが、じつはこの曝露は「ブースター効果」というものを起こしているのです。

 

 これはなにかといいますと、VZV が体に入ってこようとしたときに、体にすでに VZV に対する免疫があれば(ワクチンをうけているか、すでにVZVに感染しているということです)、免疫がびっくりして再度反応し、免疫がメンテナンスされて VZV に対する抵抗力を維持するという効果のことなのです。

 

 このブースター効果によって、帯状疱疹の発生が抑えられている部分があるのですね。

 ですから、今後しばらくの間(つまり既に感染してしまっている人が多い状況においては)、ブースター効果がへることによって帯状疱疹の発症者が増える可能性は言われています。

 ▶ 水痘・帯状疱疹の動向とワクチン IASR Vol. 39 p129-130: 2018年8月号

 

 帯状疱疹を予防する目的でのワクチンは50歳以上の方々対象となっています

 

 

 

まとめ

 

 

 水痘と帯状疱疹はヘルペスウイルスの一種である VZVによっておこる疾患です。

 水痘は初めてかかったときに起こります。

 帯状疱疹は再発として起こるのでした。

 

 水痘ワクチンの定期接種化によって、患者報告数は著明に減っています。

 一方、高齢化や医療の進展によって帯状疱疹患者の増加の傾向がみられます。

 

 小児における水痘ワクチンの定期接種率維持と、ワクチンによる帯状疱疹予防をすすめていくことが大切と考えられますね。