子宮頸癌の検診についてニュースがありました。
▶ 日本経済新聞 子宮頸がんウイルス検査推奨 国立センターが指針案
▶ YomiDr. 子宮頸がん検診でHPV検査、初の推奨…国立がん研究センターが指針改訂案
国立がん研究センターによる子宮頸癌検診の指針の改訂案が公表されました。
子宮頸癌の原因となるヒトパピローマウイルス(human papilloma virus; HPV)に感染しているか否かを調べる HPV Testing を、検診の方法として初めて推奨することになったとのことです。
現行の子宮頸癌検診のスクリーニングとしては細胞診が使われています。
これは、子宮頸部をぬぐって、細胞を採取し、細胞検査士・病理診断医が細胞の形をみて、癌になっているか、癌の前の状態である異形成に相当する異型細胞が出現していないかなどを確認する、形態学的・病理学的な方法でなされています。
こういう細胞を見ます この細胞はHPV感染が疑われる形をしています |
そもそも子宮頸癌のほとんどはHPVが感染した細胞がもととなり、HPVによって引き起こされます( 厚生労働省 ヒトパピローマウイルス感染症とは、HPVについてのWiki)。
HPVの電子顕微鏡像 |
HPV はおよそ180種類以上あり、すべてが危険なわけではなく癌を引き起こしやすいハイリスク群が知られています。
具体的には、HPV16、18、31、33、35型 …などですね。
ただし、HPVに感染したからといって、100%癌になるわけではなく、さらに、一度感染が成立しても免疫により排除される場合もあります。
そして、癌の前の段階である異形成となっても、それがすべて癌になるわけではなく、ときにそれらの病変が消失することもあります (この辺を変に解釈してがんもどきなどという人がでてくることがあります)。
CIN になった状態は組織診断で最終確認されます |
ですから、HPV感染がすべて異形成につながるわけではないですし、異形成がすべて癌になるわけでもないということです。
一方、細胞診は異形成または癌を形でみているということでした。
が、子宮頸癌がわから見ると、子宮頸癌のほぼすべてはHPVによって引き起こされています。ですから、明らかにHPV感染は非常に重大なファクターなのです。
さて、 HPV に感染しているかどうかを、ウイルスのDNAを検出する方法で確認する HPV Testing という方法を用いれば、子宮頸癌の検診のスクリーニングに使えるのではないか、ということが検討されてきました。
▶ Cytology versus HPV testing for cervical cancer screening in the general population.
Koliopoulos G et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Aug 10;8:CD008587. doi: 10.1002/14651858.CD008587.pub2.
Joy Melnikow et al. Evidence Synthesis, No. 158
前述のように、HPV感染がすべて子宮頸癌につながるわけではありませんが、感染が確認されたあとのフォローアップをしっかり行えば子宮頸癌の発症や癌による死亡を減らせるのではないかとして研究がなされてきているわけです。
また、もし使えるのであれば、それは子宮頸部の細胞診に劣っていない、またはより優れている可能性はどうであろうか、ということも検討されてきました。
また、今年になってこんな論文がでました。
Gina Suzanne et al. JAMA. 2018;320(1):43-52. doi:10.1001/jama.2018.7464
論文の結果は、
In this randomized clinical trial that included 19 009 women, screening with primary HPV testing resulted in significantly lower likelihood of CIN3+ at 48 months compared with cytology (2.3/1000 vs 5.5/1000).
19, 009人 で行われた試験ですが、48カ月後の結果として、異形成の最もすすんだ段階である CIN3 以上となった割合は、
HPV testing では 2.3/1000人
細胞診では 5.5/1000人
であり、HPV testing が優れていたとのこと。
もちろん研究の限界もあり、費用対効果等の検証も必要、と締めくくってはいます。
そういった背景があり、今回、国立がんセンターでは研究成果を分析して、HPV Testing は細胞診と比べたときにスクリーニングとして同水準の効果があると判断し、推奨するに至ったとのことです。
HPV Testing は受診頻度が5年に1回程度推奨され、2年ごととされている細胞診の半分以下の頻度となります。
今後の課題としては、現行の細胞診からはじまる検診とどのように組み合わせていくか、などを詰めないといけないことになります。
また、HPV testing もどんどん新しい手法がでてきているため、今後さらなる研究が進められることとなると考えられます。
子宮頸癌のほとんどは原因があきらかでHPVによって引き起こされるものです。
このHPV感染はワクチンで防ぐことができます。現在ワクチンは二種類。サーバリックスとガーダシルがあります。
ですから、子宮頸癌への罹患・子宮頸癌による死亡を減らすにはワクチンを普及させることが一番なのです。
しかし、ワクチンがしっかり普及するまでの間、そして、現在すでに感染している人たちに対しての検査としては HPV testing が普及してくる可能性がありますね。
ワクチンを普及させて病気そのものを減らすことと同時に、よりよいアウトプットのえられる検診をすすめることが求められているのだと思います。
● 情報のあるページ
・日本産科婦人科学会 子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために
・国立がん研究センター がん情報サービス ganjoho.jp
・KNOW・VPD! ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がんなど)