病理医研究者のぼちぼち日記

病理医で研究者の著者が病理のことを中心にのんびりつづるブログ

多発性骨髄腫について

 

 多発性骨髄腫は年齢が上がるにつれて発症率があがる、血液のがんの一種です。決して発症率が高いわけではないのですが、高齢化に伴い増えています。多発性骨髄腫について簡単に解説したいと思います。

 著名人で、岸博幸さんや佐野史郎さんが、罹患されていることを公表されています。

 

 

多発性骨髄腫とは

 多発性骨髄腫(Multiple myeloma, MM)というのは、主に全身の骨に病変ができてくることから名付けられた、血液のがんの一種です。全身に多発することは当然のように考えられていることもあり、最近医療者界隈では骨髄腫(Myeloma、ミエローマまたはマイエローマ)と呼称することが多くなっています。

 高齢者に多く発症するがんであり、近年増加がみられます。

 

 統計情報はがん情報サービスのこのページに載っています。

 

 多発性骨髄腫は、形質細胞という抗体を作る細胞ががん化することで起こります

 

 私たちの血液の中には、さまざまな細胞が含まれています。
 酸素を運ぶ赤血球、血を固める血小板、主に細菌などから体を守る好中球などの顆粒球、ウイルスなどから体をまもるリンパ球などがあります。
 リンパ球はさらに細かく分類がわかれ、抗体を作るB細胞~形質細胞、免疫機能を調整したり細胞などを壊したりするT細胞、その他NK細胞などがあります。

 

 

 B細胞~形質細胞と書いたのは、後にのべるように体の中でB細胞は成長・発達して機能を獲得して最終的に形質細胞になるのです。

 これらのうち、おもに好中球など顆粒球・骨髄球系の細胞が「がん」になると、血液の中をがん細胞が流れている状態になり、白血病と言われます。

 リンパ球系の細胞が「がん」になると、リンパ節やいろいろな臓器にある程度の塊をつくることが多く、リンパ腫(りんぱしゅ)というがんになります。

 

 B細胞のリンパ球なので、ここからリンパ腫が生じることが多いのですが、形質細胞というところまで分化(未熟な細胞が成熟した細胞になること)した細胞ががんになると、多発性骨髄腫、になります。

 

 

骨髄腫細胞の特徴

 骨髄腫細胞は形質細胞ががん化したものなので、形質細胞に似た特徴を備えています。以下のような特徴があります

 

  1. 骨の真ん中の部分である骨髄が好きでそこで増える(骨に多発性の病変ができる)
  2. M蛋白質(抗体と同じようなもの)を作る(これにより様々な症状が全身に出る)
  3. 形質細胞が分泌するサイトカインなどを出す(これにより熱が出たり骨を壊したりする)

 

 そして治療が難しい点としては、しっかり分化した細胞の特徴とも言えるのですが、化学療法(抗がん剤)などが効きにくい場合が多いということがあります。

 

 細胞学的・組織化学的には、細胞は好塩基性の豊富な細胞質を有し、核は偏在してクロマチンの特徴的なパターンがみられる車軸核という状態になります。核周囲にはハローと呼ばれる領域が出現し、これは豊富なゴルジ体などを反映しています。免疫組織化学的には 形質細胞で普通に染まるCD138陽性にくわえて、CD56、CyclinD1 が陽性になるなどの場合が多くあります。染色体異常として t(11;14)、t(4;14)、t(8;14)、del(13)、del(17) などが代表例でみられます。

 

多発性骨髄腫の症状

 

 多発性骨髄腫になったら必ずすぐに治療が必要かというとそういうことではありません。治療が必要なのは、背骨などの骨折(痛み)や骨折しやすい(骨病変)が明かな場合や、血液中のカルシウム濃度が高くなってしまう(高カルシウム血症)の場合、M蛋白質による腎不全、貧血が強くなった場合、などの明かな症状が1つ以上ある場合になります。

 多発性骨髄腫が起こっていても、症状がない場合を無症候性多発性骨髄腫と言っていて、その場合にはすぐには治療を始めず、定期的な検査による経過観察を行う場合もあります。

 病気が進展してくると、骨髄腫細胞が髄外病変といって、いろいろな臓器にひろがって浸潤することもあり、その場合にはさらにさまざまな症状が出ることがあります。

 

代表的な症状

 初発の症状で多いのは骨折による痛みです。骨髄腫細胞はjほねで増えますので、骨が脆くなり、折れやすくなります。特に背骨などで骨折が生じることがあります。

 高カルシウム血症になると、めまい、頭痛、口の渇き(口渇)などの症状があらわれることがあります。

 骨髄腫細胞が増えると、貧血がおこり、息切れや動悸が起こることもありますし、倦怠感や発熱などの症状があらわれることもあります。

 M蛋白質という骨髄腫が作り出すタンパク質が増加すると、血液の粘り気が高くなる過粘稠度症候群が起こりえます。すると、めまいや頭痛などの症状があらわれることがあります。

 これらの様々で多彩な症状が現れる可能性がある一方で、健康診断などの検査値の異常によって偶然みつかる人も増えています。そういう場合には症状が全くない人もいます。

 

 

多発性骨髄腫の検査

 多発性骨髄腫が疑われる場合には、一般的な血液検査や尿検査、全身の病変の広がりをみるためのCT・MRI・シンチ検査などの他、確定診断・病型確定のため骨髄検査(骨髄穿刺・骨髄生検)が行われます。骨髄検査で採取されたサンプルは、フローサイトメトリーという細胞の種類を判定する検査や、遺伝子・染色体検査、病理診断などに使われることになります。

 


多発性骨髄腫の治療

 多発性骨髄腫の治療は基本的には化学療法(抗がん剤)治療を基本とした治療法が行われます。長い間、なかなか治療が難しい病気でしたが、ここ20年ほどの治療法の進歩は勢いがあり、新規薬剤も毎年のように上市されて治療成績もよくなっています。

 

 

参考になる資料


多発性骨髄腫 - がん情報サービス
多発性骨髄腫 - 13. 血液の病気 - MSDマニュアル家庭版
多発性骨髄腫|がんに関する情報|がん研有明病院
多発性骨髄腫の治療を受けられる患者さんへ - 武田薬品

日本骨髄腫学会編.多発性骨髄腫の診療指針 第5版.2020,文光堂.